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米ルイジアナ州ニューオリンズは、ジャズ発祥の地として知られています。地理的にはメキシコ湾に面し、カリブ海の島々にもほど近いこの街は、「サン・アントニオ」や「エル・パソ」といったようにスペイン語の名称であっても何ら不思議ではありませんが、「ニューオリンズ」はフランス語に由来しています。スペイン人のコンキスタドール(探検家または征服者)に先んじてこの地を征したフランス軍が、ルイ十五世の摂政を務めていたオルレアン公(duc d'Orléans)フィリップス二世に捧げたことからこのように名付けられました (オルレアン公の新しい領土)。

 

1803年に米国領となる以前からこの港町には多数の奴隷たちがアフリカ大陸から”輸入”されており、1800年の調査によればルイジアナには19,852名の自由人と24,264名の奴隷がいたとされています。つまり入植者よりも奴隷が遙かに多い歪な人口構成となっていたわけです。アフリカ系とフランス系の両親を持つクレオール(Créole)と呼ばれた人々も数多く、奴隷解放に伴い”失職”してしまいますが、その中から音楽的素養があった者たちが楽器を手に取りブルース、そしてジャズを生み出して行きました。ちなみにジャズ(Jazz)の綴りは元々”Jass”で、フランス語で「気合いを入れる」といった意味合いの”jaser”が語源であったと云われています。性的なスラングあったことも頷けます。

 

仏領時代の風情を僅かに残すフレンチ・クオーターのバーボン・ストリートでは、観光客向けにデキシーランド・ジャズが昼夜を問わず演奏されています。その中でも一際、精彩を放っているのが本日ご紹介するチューバ・スキニー(Tuba Skinny)です。「やせっぽちのチューバ」といった何とも粋な名を持つバンドのリーダーは、コルネット奏者のシャヤ・コーンさん(Shaya Cohn)。メンバーは揃いも揃って、いかにも「10年は着古していますよ〜」といった色褪せたおべべに、たっぷり埃を被ったブーツを愛用。「いかにも」な風体が、より一層ブルージーな雰囲気を醸し出しています♪

何となくどこかでお目にかかったかのような目鼻立ちのコールさん。実は、彼女のお母様は日本人で、お祖父様は何とあの有名なサキソフォン奏者アル・コーンだと云います。彼は、ウディ・ハーマン楽団で同じ釜の飯を食ったズート・シムズと組んだクインテットの名演で知られています。今宵は、ルイジアナ名物ケイジャン・フード(Cajun)を味わいながら、世界最古のカクテルと地元民が云い張るライ・ウィスキーベースのサゼラックを煽り、サッチモのラッパに酔い痴れてみるのも悪くない。

 

曲はデューク・エリントンがニューヨークのハーレムにあった有名クラブ『コットン・クラブ』と長期出演契約を結んだ翌年にあたる1928年に作曲した『ジュビリー・ストンプ』(Jubilee Stomp)。演奏している彼らの後ろで、まるで映画のワンシーンのようにカップルが踊りながら去って行く姿が微笑ましい♪