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「父の日」に使用された水色のMLB公式球。これは前立腺がん撲滅キャンペーンの一環として2004年から始まった一日限りのイベントです。試合後、選手が使ったユニフォームや道具はチャリティ・オークションにかけられ、前立腺がん研究機関に寄付されます。大谷翔平選手も水色のシューズを履き、水色のバットで見事なホームランをかっ飛ばしました。

 

   米国では、野球場はボールパーク(Ballpark)と称されます。私も取材またはプライベートで全米各地のボールパークへ足繁く通いましたが、それぞれに個性があり、試合のみならず土地の文化や伝統を垣間見る楽しみがありました。ボールパークといった呼称には、単なる”球技場”といった枠には収まり切らない”ハッピーな時間を共有する空間”といった意味合いが含まれています。

実際、ボールパークに足を踏み入れてみると、親子や祖父母と孫といった組み合わせが多いことに気づきます。人気プロスポーツとしてはアメリカンフットボール(NFL)やバスケットボール(NBA)の後塵を拝し、今や国民的スポーツ(National Pastime)と呼ぶには無理がありますが、何代にもわたって贔屓チームについて家族で語り合えるスポーツはと云えば、長い歴史のあるベースボールをおいて他にはありません(米国、日本以外の国々では、これがフットボール、つまりサッカーになります)。

 

父の日であった昨日、ちょうど対デトロイト・タイガース戦で大谷翔平選手がシーズン自己最多となる23号ホームランを放ったその日。ロサンゼルス・エンゼルスの本拠地エンゼル・スタジアム・オブ・アナハイムのバックスクリーンには、イニング間のインターバルに粋なメッセージが流されていました(このメッセージの後に、各選手の家族が登場し、フィールド上で活躍する”お父さん”に感謝の言葉を述べるといった洒落た趣向です)。

 

父の日おめでとう♪                 HAPPY FATHER’S DAY

 

いつも宿題を手伝ってくれてありがとう            Thanks for helping with my homework

お弁当を作ってくれてありがとう             Thanks for making my lunch

練習場に送り迎えしてくれてありがとう              Thanks for driving me to practice

ベストを尽くすんだ、と励ましてくれてありがとう   Thanks for encouraging me to do my best

汚れたユニフォームを洗ってくれてありがとう           Thanks for doing my laundry

試合に連れて来てくれてありがとう          Thanks for taking me to the game

そして、いつも側にいてくれて、ありがとう      Thanks for being there

 

   シンプルではありながらも、何とも味わい深い一文です。「弁当」や「送迎」、「洗濯」は日本であれば、ついついお母さんの”お仕事”と見做され勝ちですが、米国では当たり前のように家庭内で役割分担が為されていることがわかります。

 

   また、ボールパークに限らず、米国のプロスポーツでは、観客を楽しませるために様々な工夫を凝らした”おもてなし”が行われています。「父の日」には水色、「母の日」にはピンクを用いた特別仕様のユニフォームを着用するのも、そうした"真面目な遊び心"の一環です。試合前やハーフタイムは、エンターテイメント王国の本領発揮といったところでしょう。

とは云え、興味深いことにその多くが、主催者が一方的に演し物を提供する”お客様は神様です”といったスタイルではなく、観客を巻き込んで親密な空間を共に作り出す、単純でありながらもよく練られたアイデアであることに感心させられます。エンターテイメントと云えばすぐに「どんなイベントがいいか」とか「どの芸能人に来てもらおうか」と考える、どこぞの国のプロデューサーとは雲泥の差。こんな些細なところにも伝統の重みが顔を出します。

 

こちらはベースボールではなくアメリカン・ホッケー・リーグ(AHL: 北米のプロアイスホッケーリーグNHLの下部組織)に所属するグランドラピッズ・グリフィンズの試合で、ハーフタイムに行われていた名物企画「KISS CAM」をまとめた映像です(2017〜2018年シーズン)。バックスクリーンに映し出されたカップルがキスをするといった他愛もない余興ですが、米国人らしくウケを狙う者、米国人らしからぬシャイな反応を見せるカップル等々、観ていてほっこりさせられます。新型コロナウイルスが一日も早く終息し、またこんな心暖まる日々がやって来ることを、願わずにはいられません。