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ロシア連邦の軍事侵攻に晒されているウクライナの首都名をどのように表記、発音すべきか? が議論の的となっています。松野博一官房長官は今月15日の記者会見で、現時点において呼称を変更する考えはない、と明らかにしましたが、アンチ・ロシアで連帯する英BBCを始め米NBCやABC、『The New York Times』といった欧米のマスメディアは、すでに表記をロシア語の発音に基づく「KIEV」 (キエフ) からウクライナ語の発音をベースとした「KYIV」 (キーウ) に変更しています (我が国のマスメディアは「キエフ」のままです)。ちなみにこの「キエフ」は、5世紀末から6世紀初頭にかけてこの街を創建したとされるポリャーネ族の公爵「キーイ」 (Kyi) の名前から取られています。

 

こうした海外の国名や都市名の日本語表記は、なかなかどうして容易ではありません。今回のケースに限って云えば、ウクライナ政府から正式に呼称変更の申し入れがあったわけではないため、外交上は冷静な判断であったと云えるでしょう。

最近の例を挙げれば、ソビエト社会主義共和国連邦 (旧・ソ連) を構成していた「グルジア」 (Georgia) 政府から、「この国名はロシア語に基づいた読み方なので、英語表記の”ジョージア”に変更して欲しい」との要請を受け入れ、日本政府は2015年に表記を変更しています (当時は、米ジョージア州との混同を招く、といった声も挙がっていました)。ところが、同国の憲法で定められている正式名称は「საქართველო」であり、「サカルトヴェロ」(Sakartvelo)といったカタカナ表記の方が的を射ているため、正解はあってないようなもの。政治状況や時の為政者の思惑によっても表記は変わるため、一筋縄では行きません。

 

人名ともなれば尚更です。西洋では極めて一般的な女性の名前「エリザベス」 (Elizabeth) は英語読みですが、フランス語だと「エリザベート」 (Elisabeth)、イタリア語だと「エリザベッタ」 (Elisabetta)、ロシア語だと「エリザヴェータ」 (Elizaveta) となり、さらに時代を遡れば、旧約聖書に登場するアロンの妻「エリシェバ」 (Elisheva) にまで行き着きます。

 もしも日本が戦後、米国ではなく連合国のひとつであった旧・ソ連主導で教育改革が成されていたならば今頃、我々は英国の女王を「エリザベス2世」ではなく、「エリザヴェータ2世」と呼んでいたかも知れません。

 

  そこのおじさん、おばさん。今や高校の教科書では、第16代米大統領エイブラハム・リンカーンはすでに「リンカン」へ、フランクリン・ルーズベルト第32代大統領は「ローズベルト」に読み方が変更されていますよ。