20220728-1.jpg
 

 

岸田文雄総理大臣という御仁は”昼行灯”かと思いきや、どうやらとことん風向きを読むのが苦手なご様子。時代は大きな節目を迎えようとしています。今後、永田町に吹き荒れるであろう最大級の暴風雨に処するだけの智恵と胆力を備えておられるのでしょうか。失われた10年、いや30年を私たちは、果たして取り戻すことが出来るのでしょうか。

 

我が国の憲政史上、最も長く総理大臣を務めた故・安倍晋三氏が強硬に押し進めた戦後レジームからの脱却とは、要は強大な官僚組織の解体を意味していました。公選された全国民の代表たる国会議員の失地回復とも云えるでしょう。これは祖父である岸信介氏の時代から延々と続くジレンマで、自由民主党にしてみれば憲法改正と共に、結党以来の悲願ともなっていました。

そもそも日本という国は、戦前は内務省、戦後も強大な行政権限を持つ官僚機構によって”統御”されて来たと云っても過言ではありません。彼らには、極東の小国に過ぎなかったこの国を、世界有数の軍事大国、そして経済大国へと押し上げたのは我々だ、といったプライドがあります。事実、世界で最も洗練された”科挙制度”とも云える官僚組織なくして、この国の近代〜現代における成功はあり得なかったでしょう。

 

しかしながらグローバリズムを掲げる新自由主義者にとって、これほど厄介な代物はありません。単なる重厚長大な組織体であれば、旧態依然としたその有り様を槍玉に挙げ、とっととお払い箱にしてしまえば事足りますが、相手はぼっと出の政治家なんぞ足元にも及ばない超エリート集団であるだけに、下手を打てば思わぬ返り血を浴びることになる。

そのため、総理大臣と云えども、なかなか手出しが出来なかったわけですが、「売り屋と唐様で書く三代目」を地で行くぼんぼん育ちの安倍晋三氏は、何ら”忖度”することなく官僚組織にメスを入れ、挙げ句の果てにそれまで”タブー”とされていた人事権にまで首を突っ込んだ。前例を踏襲することが鉄則の官僚機構にとって、政治的思惑によって半ば強要された決裁文書の廃棄や改竄は、まさにレゾンデートルそのものを脅かす一大事であったわけです。

 

これで巨大なピラミッドが音を立てて崩れ落ちるかと思いきや、安倍晋三氏が道半ばで兇弾に斃れたことで潮目が変わった。いやいやどうして、選民意識の強いエリートたちが、いつまでも小粒感満載の政治家たちに平伏しているはずがありません。伏魔殿を舐めてはいけない。今後、重しが取れた不安定な政局の間隙を突いて、また優柔不断な岸田文雄総理大臣の足元を見透かして、高級官僚たちの陰険なリベンジ、逆襲が燎原の火の如く広まることでしょう。

検察庁や警察庁でさえ、まるでタガが外れたかのように権力闘争を激化させることは火を見るよりも明らかです。これまで「見つからなかった」とされていた、「破棄した」とされていた森友・加計問題や桜をみる会にまつわる内部文書、つまりは清和政策研究会(清和会)にとっては致命傷となるような情報が、9月上旬にも予定されている内閣改造・党役員人事に向けて次々とリークされることが予想されます。

折から、まるで”亡霊”の如く甦った世界平和統一家庭連合(旧・統一教会)と自由民主党との”親密な関係”が暴露されたこととも相まって (『日刊ゲンダイ』が報じるところによれば、安倍派97名のうち少なくとも35名が何らかの形で関与)、これら清和会に属する”灰色”議員らは新閣僚名簿から排除せざるを得なくなるでしょう。

 

 

はてさて岸田文雄総理大臣は、早くも窮地に追い込められてしまうのか。「今回はこうした不可避の事態ですから…」と、安倍派の登用をひとまずペンディングしたとすれば、次には何が起こるのか。政界では裏切りや闇討ち、手の平返しは日常茶飯事です。そもそも最大派閥と豪語しながらも清和会を構成する議員たちの多くは、寄らば大樹の陰といった根無し草が多い。まだ安倍晋三氏が若かったこともあり、後継者が不在の清和会は、あれよあれよと云う間に空中分解を起こす可能性が極めて高いと云えるでしょう。となれば、棚ぼた式で漁夫の利を得るのは、誰あろう岸田文雄総理大臣率いる宏池会ということになります。

 

今月行われた参議院議員通常選挙における自由民主党の圧勝を受け、深謀遠慮に欠ける有識者や文化人と称される方々は「憲法改正は不可避」、「軍事国家へ一直線」などと、ナイーヴにも声を荒立ててはいますが、政治の世界というものは筋書き通りに事が進むことの方が稀。憲法改正に異様な執念を見せていたのは故・安倍晋三氏であって、ハト派として知られる宏池会の首領 岸田文雄総理大臣は「安倍 元・総理の遺志を継ぎ」と殊勝に語ってはいるものの、取り立てて真剣に取り組んで来たわけではないことは、これまでの言動からも明らかです。

国民の憲法改正に向けられる関心も1割以下とあっては、現役の為政者としての最重要かつ直近の課題は経済問題。これに尽きます (憲法改正はこれまでにも幾度となく俎上に載りましたが毎回、経済政策が優先され、先延ばしにされて来た歴史があります)。今後、さらに拡大するであろう価格高騰や新型コロナウイルス、そして留まることを知らない経済格差といかに取り組むか。日本経済の浮沈がかかっているだけに、「憲法改正どころではない」というのが本音でしょう。

 

来年4月には財務省出身の黒田東彦 日銀総裁の任期切れが控えていることから、新たな人事によってアベノミクスとの訣別を宣言しなければなりません。特に、続く5月19日から広島で開催される主要7カ国首脳会議 (G7サミット) には新体制で臨み、岸田文雄総理大臣が云うところの「新しい資本主義」を何とか国内外に印象づけたい (この段階で漸く”安倍カラー”の払拭は完了します)。とは云え、さしたる経済再建策が打ち出せない、どころか既に手の施しようがないところにまで国力は落ち込んでいる、というのが実情でしょう。

 

憲法改正のハードルは、皆さんが考えている以上に高い。このブログの『日本国憲法解体新書』(昨年5月17日付)でも綴ったように、いくら改憲勢力が過半数を超え、いつでも国会発議が出来る環境が整ったとは云え、国民投票で過半数を得ることは並大抵のハードルではありません。保守系のサイレント・マジョリティもさすがにミクロ経済が逼迫する今、「何が何でも憲法を改正する必要があるのか。そんな議論にうつつを抜かしている暇があれば、とっとと効果的な経済対策を打ち出せ」と感じ始めている (極右、極左がいくら声高に叫ぼうが、世論を形成するのは無党派層を含むこれら保守中道の一般大衆です)。

 

さらには、もしも自由民主党の改正原案が衆参両院の本会議で可決され、国民投票に付され、結果的に否決された場合、同党は少なくとも今後半世紀近くは改正案を出せなくなるでしょう。そのため、自由民主党としては90%以上の確率で勝てる”見込み”がなければなかなか踏み出せない。それこそ、同党のレゾンデートルに関わる問題だからに他なりません。岸田文雄総理大臣にそれほどの大勝負に打って出る胆力と、狡猾に世論を誘導する智恵が備わっているのかどうか。新内閣の顔ぶれを見れば、その答えは自ずと明らかになるでしょう。

 

このページのトピック