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カマラ・ハリス副大統領とおぼしき女性が、トランプ前大統領のスローガン「「米国を再び偉大にしよう」(Make American Great Again) を踏みつけています (シンディ・ソリディさんのFBから引用)。

 

予想通り米民主党は、オンライン指名投票によって大統領選挙の党候補としてカマラ・ハリス副大統領を正式に指名する公算が高まっています。初もの尽くしの彼女に対する”御祝儀相場”が一巡すれば愈々、本格的な票取り合戦に突入します。唯我独尊タイプ同士の一騎打ちともなれば歴史上、稀に見る泥仕合となることは火を見るよりも明らかです。さて、軍配はどちらに上がるのでしょうか。

 

今回の大統領選挙は、これまでになく「情緒的要素」が前面に打ち出される可能性が高いものと思われます。カマラ・ハリス副大統領は、「トランプ以外であれば誰でもいい」といった”反トランプ票”を軸に「女性」、「アフリカ系米国人」、「南アジア系米国人」といった属性を最大限に活かして闘うこととなるでしょう。

一方、トランプ陣営は彼女の「組織運営能力」ならびに「人望」のなさを叩き、国益に直結する「安全保障」や「外交」経験が皆無であることをあげつらっています。この点、2016年 (平成28年) に民主党の大統領候補に指名され、トランプ前大統領に僅差で敗れたヒラリー・クリントン元・国務長官とハリス副大統領とでは、キャリア面において雲泥の差があります。

ハリス副大統領は今月23日、激戦区 (スウィング・ステート) のひとつウィスコンシン州ミルウォーキーで開かれた選挙集会で、「私は、カリフォルニア州司法長官に選ばれる前は検事でした。その際、あらゆるタイプの加害者に接して来たので、ドナルド・トランプがどのようなタイプの人間であるかを知っています」と語り、対決姿勢を露わにしました。

元・検察官であるハリス副大統領にはこれまでの言動からも、ややもすれば理詰めで相手をやり込める傾向が見受けられます。しかしながら、副大統領といった要職にありながらも実績に乏しい、寧ろ失政の方が多い彼女が取るであろう、取らざるを得ないこうした「正義の味方」 対 「極悪人」といった一見わかりやすい対立の構図は、人身攻撃のみならずスキャンダルの応酬をも招くこととなり、諸刃の剣とも成りかねません。

事実、彼女のトップダウン型マネージメントが災いし、これまで多くの側近たちが彼女の元を離れて行きました。人心掌握術は、リーダーとしての必要最低条件です。いわゆる感情的な”叩き合い”で百戦錬磨のトリックスター トランプ前大統領にどこまで迫れるのか。石田国松さながらに真の”ハリスの旋風”を起こせるのでしょうか。

 

スペイン語で「間抜け」 (Pendejo) と書かれたビルボード (アクア・デル・カルメン・バズケス・ヴィラレールさんのFBから引用)。

 

ハリス副大統領にはマスメディアや、現在の米国の富を牛耳るIT長者らを含むエリート層に支えられているといった自負があります。一方、トランプ前大統領の支持基盤は好況期にも関わらず職を失い、深刻なインフレーションの直撃を受けているプアホワイトたちです。ヘリテージ財団が中心となってまとめ上げた『プロジェクト2025』の破壊力を十分には理解していない一般有権者たちです。ハリス副大統領の選挙戦略が過度に”属性”に依存すれば、特に激戦区と謂われるペンシルベニア州やミシガン州、ウィスコンシン州の大半を占める中道保守層の反発を招くことにもなるでしょう。

ハリス副大統領は、シリコンバレーを擁するカリフォルニア州出身。意外に思われるかも知れませんが人口3903万人、55人という最大の選挙人を持ちながらも、同州を地盤に大統領の座にまで登り詰めた人物はロナルド・レーガン第40代大統領しかいません。

カリフォルニア州は、米本土における西部開拓の最終地点であり、アメリカン・ドリームのシンボルでもあります。ありとあらゆる新たな発想はここから生まれる。非常に魅力的な約束の地である反面、州外の米国人にとってカリフォルニアンはまるで宇宙人。急進的な政策にはついて行けないといった声は、平均的米国人である私の友人たちからも聞こえて来ます。

 

いずれにせよ、勝敗を分けるのはミクロ経済政策の善し悪しに尽きると云って良いでしょう。トランプ前大統領は一貫して「アメリカ・ファースト」。輸入品に対して追加関税を課し、米国外で生産された自動車には最大200%の関税をかけ自国産業、特に製造業の復興を図る。算盤勘定に合わない紛争地への軍事介入は止める、と明言しています。

今世紀に入り米国経済は、ビッグ・テック (日本特有の呼び方はGAFAM) の台頭により未曾有の好況に湧いています。しかしながらバイデン政権の”失政”により、インフレーションは留まるところを知らず、1971年 (昭和46年) に61%を占めていた中産階級が2021年 (令和3年) には50%にまで縮小し、貧富の差が拡大し続けています。

ハリス副大統領が、サイレント・マジョリティの支持を得られるとすれば、こうした経済格差に起因する社会的分断を解消する”特効薬”を編み出し、実行を約した時でしょう。そうでなければ彼女の元に集まる膨大な献金は寧ろ、感情的な反感を買う種となる危険性があります。果たして彼女は、「あなたはココナッツの木から勝手に落ちて来たと思っているの?」 (You think you just fell out of a coconut tree?) と諭した母親の教えを守ることが出来るのでしょうか?

 

1999年 (平成11年) にリリースされたレッド・ホット・チリ・ペッパーズの『カリフォーニケーション』(Californication)。 「宇宙は最後のフロンティアだったはずなのに ハリウッドの地下で創られている」(Space may be the final frontier but it's made in a Hollywood basement) といったように、カリフォルニアの光と闇をシニカルに綴った問題作。