ドナルド・トランプ前大統領が次期大統領に選出され、これから世界はどうなってしまうのだろう? 屡々コメントを求められますが、先ず以て彼は”新人”ではありません。想定外の言動が極めて多い人物ではありますが、大統領職を4年間勤め上げた実績があります。”第1次 トランプ政権”をいかに分析・総括し、結論付けたのか。各国政府のインテリジェンスのクオリティが今こそ問われています。
トランプ前大統領は、その悪代官然とした風貌と品性の欠片も感じられない言動が災いし、生理的に受け付けない、見るのも嫌だ、といった方も少なくないでしょう。何を隠そう私もそのひとりでした。しかしながら次期大統領に返り咲いた以上、そうも云ってはいられません (はじめにお断りしておきますが、私はジャーナリストとして、あくまでもニュートラルな立場にあり共和党、民主党のいずれに組みするものでもありません)。
トランプ前大統領を理解する上で、決して忘れてはならないのが、彼は優れたビジネスマンであるといった点です (アンゲラ・メルケル元・独首相曰く「不動産開発業者」)。云うまでもなく”ファシスト”では商取引は出来ません。押してダメなら引いてみな。ディール (駆け引き) に長けていなければ商売は成り立ちません。連邦政府の長としての彼の判断基準は極めてシンプルで米国の、米国人の利益に資するか否か。たったそれだけです。この国益を重んじるスタンスは、彼の政治スローガンである”America First” (アメリカ第一主義) にも端的に示されています。
まさにマテリアリズム (Materialism) の権化ですが、米国において物質主義は必ずしも蔑まれているわけではありません。欧州の封建社会や宗派、階級、人種といったしがらみから逃れるべく新天地へと渡った彼らは、民主主義と並んで「$」を”信仰”の対象としました。それは紙幣や硬貨に”IN GOD WE TRUST” (我々は神を信じる) と記されていることからも明らかです。
ビジネスマンであるトランプ前大統領にとって覇権主義や他国との共存共栄は、一銭の得にもならない代物として映ります。労働力人口1億6673万人を有し、食糧自給率は132% (カロリーベース)、エネルギー生産は約103クオードで消費を遙かに上回る”偉大な国”がなぜ凋落しなければならないのか? “誇り高き国民”がなぜ経済格差に苛まれなければならないのか? その原因は、すべて外国勢力にある。彼らが米国を食い物にしている。これが彼の揺るぎない信念です。
私が米国に留学していた1980年代半ば、不動産王として巨万の富を築いていたトランプ前大統領は、時代の寵児としてマスメディアに盛んに取り上げられていました。すでに大統領選挙に出馬するのではないかと噂されていた当時の彼は、米国市場を席巻していた高品質で低価格の日本製品を槍玉に上げ、膨大な米国の富を我が国がかすめ取っていると盛んに喧伝していました。
「米国は、欧州の安全保障上、頼りになる存在か?」といった設問に対して、米国人の24%は「イエス」と答えているのに対して、欧州 (英国、ドイツ連邦共和国、フランス共和国) の国民の46%は、「まったく頼りにならない」または「どちらかと云えば信頼出来ない」と回答しています (米国際問題研究所調べ)。
トランプ前大統領は一貫して孤立主義 (Isolationism) を掲げています。米国では、孤立主義と覇権主義が時計の振り子の如く交互に立ち現れます。その嚆矢となったのがモンロー主義で (Monroe Doctrine)、第5代ジェームズ・モンロー米大統領は1823年 (文政6年)、欧州列強に対して大陸間の相互不干渉を提唱し、欧州諸国間の紛争に干渉しない代わりに南北アメリカの植民地を主権国家として認めるよう迫ります。
当初は第一次世界大戦も傍観し孤立主義を固持していた米国でしたが、やがて欧州の度重なる説得にほだされ、第28代ウッドロウ・ウィルソン大統領は中立姿勢を放棄し1917年 (大正6年)、ドイツ帝国 (現・ドイツ連邦共和国) に対して宣戦布告。「十四か条の平和原則」を発表するなど、国際協調路線へと大きく舵を切ることとなります。
時代が下がり旧・ソビエト社会主義共和国連邦 (現・ロシア連邦) が崩壊し、冷戦が終結したことにより米国における孤立主義は再び息を吹き返します。国内経済が疲弊しているにも関わらず”世界の警察官”である続けることなど愚の骨頂、といった現実主義的発想によるものです。
トランプ前大統領は、ウクライナとロシア連邦との戦闘を、大統領就任後「24時間以内に終結させる」と豪語しました。お得意のブラフと見る向きもありますが、あながち不可能とも云い切れません。というのも以前、このブログでも綴ったようにウクライナそしてイスラエル国も、米国からの資金ならびに武器提供が途絶えれば、停戦交渉のテーブルに着かざるを得ないからに他なりません(https://japanews.co.jp/concrete5/index.php/Masazumi-Yugari-Official-Blog/2023/2023-11/戦-は-財-と-知-を抜きにしては語れない)。
2021年 (令和3年) の大統領退任演説で「私は新たな戦争を始めなかった。ここ数十年で初の大統領となったことを特別に誇らしく思う」と語っていた彼にしてみれば、国益を直接損なうわけでもない海の向こうの紛争当事国ウクライナに対して総額約80億ドル (約1兆1000億円) もの軍事支援を行うことは税金の無駄遣いとしか思えない。とっとと他国のトラブルからは手を引き、”Make America Great Again” (アメリカを再び偉大な国に) に専念したいというのが本音でしょう。
実態の伴わない「正義」とやらを振りかざし、有りもしない「平和」を唱えるよりは「他国の諍い事なんざぁ、あっしの預かり知らないことでござんす」と白を切る。距離を置く。国際社会から孤立したところで、十二分に自給自足が可能であるどころか経済成長が見込める食糧・エネルギー大国ならではの非常にわかりやすい、ポピュリズムの王道を往く論法です。はてさて、同盟国または属国である我が国の行く末や如何に?