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球団設立当時の広島カープ (現・広島東洋カープ) の選手たち。

 

スポーツには、国境を越えて感動を呼び、人々の心をひとつに繋ぐ力があります。大谷翔平選手や久保建英選手の活躍を見ても、優れたプレーは人種や性別、国籍の垣根を超えて多くの人々にエクスタシーを与え、ひいては相互理解も促します。そこで広島東洋カープにご提案です。

このブログでも何度も指摘して来たように、広島市ならではのコンテンツは「平和」です。批判を怖れずに云えば、それしか世界に誇れる要素はありません。そんな被爆地・広島市に本拠を置くカープたるもの、フェアでクリーンなプレーを通じて世界へ向けて「平和」の尊さ、意義を伝えるメッセンジャーとなるべきでしょう。

 

単刀直入に申し述べます。ズバリ来期、辛うじて”被爆80年”にあたるシーズン開幕前に、米国遠征を企画・実行されてはいかがでしょうか。MLBのクラブチームとのプレシーズン・マッチ (親善試合) です。2023年 (令和5年) に開催された第5回 『ワールド・ベースボール・クラシック』や先頃開催された『MLB東京シリーズ2025』を通じて、米国のベースボール・ファンの日本野球に対する興味をこれまで以上に高まっています。

さらにはカープはこれまで、ロサンゼルス・ドジャースやニューヨーク・ヤンキースのエースとして活躍した黒田博樹さんや前田健太投手 (デトロイト・タイガース)、鈴木誠也選手 (シカゴ・カブス) といった主力選手をMLBへ送り出し、日米野球の相互理解に貢献して来ました。プレシーズンマッチとは云え、一定の集客が見込めるだけにMLBとしても大歓迎でしょう。

 

広島でも余り知られていませんが何を隠そう戦後、初めて海外遠征を行った我が国のプロ野球チームは東京読売巨人軍 (現・読売ジャイアンツ) でも大阪タイガース (現・阪神タイガース) でもなく広島カープ (現・広島東洋カープ) でした。

詳細は拙著『平和の栖〜広島から続く道の先に』に綴りましたが1954年 (昭和29年)、結成からわずか4年目のカープはフィリピン共和国へ初の海外遠征を行っています。この快挙は、広島県選出の松本瀧蔵衆議院議員の尽力によって成し遂げられました。日系二世であった彼は戦前帰国し、私立光陵中学校 (現・広陵高等学校) の夜間部 (鯉城中学) を経て本科へ編入。明治大学予科 (商学部) へ進学し、やがて明治大学教授となります。戦後は第22回 衆議院議員選挙に広島全県区から立候補し見事初当選を果たしました (46年)。

松本は、明治大学助教授時代に経営学を修めるべく米ハーバード大学へ留学し、38年 (昭和13年) に同・大学院経営学科を卒業しています。戦時中は、教職の傍らアジア全域に拡大した占領地域における政策を一元化する目的で42年 (昭和17年) に創設された大東亜省の嘱託を兼任し、ビルマ (現・ミャンマー連邦共和国) 独立の闘士であったバ・モウ行政府長官を始め、インドの英植民地からの独立を指導したスバス・チャンドラ・ボースら各国高官の通訳を務め、フィリピン国立大学では1年間にわたり教壇にも立っていました。

彼の実績と同国で培った信頼関係が功を奏し、未だ反日感情が強い時代であったにも関わらずラモン・マグサイサイ大統領を始めフィリピン国民は、被爆地からやって来たカープを”日本の親善大使たち”として大歓迎したと伝えられています。

松本は、根っからの野球少年でした。広陵中学野球部に在籍していた当時には、満州遠征も経験しています。同校の卒業生で南満州鉄道 (満鉄) に勤務していた松富保明が上司に掛け合い満州および朝鮮半島における無賃パスを発給する手筈を整えてくれたお陰で、遠征を実現することが出来ました (一行22名16日間、総遠征費1,226円)。先輩の配慮によって青春を謳歌出来た彼には、せめてもの恩返しといった気持ちがあったことでしょう。また、焦土と化したと祖国で息を吹き返した日本の野球が将来、世界に羽ばたいてもらいたいといった大きな夢も抱いていたはずです。松本は黒田さん、前田選手、鈴木選手の活躍をどのような想いで観ていたことでしょう。

 

フィリピン遠征時の選手たちと松本瀧蔵 (左上)

 

今シーズンは広島にとっても、カープにとっても特別な1年となります。メジャーリーガーとの交流は、若手選手にとって掛け替えのない経験となるでしょう。それだけではありません。この歴史的節目に被爆地・広島をホームとするプロ野球チームが米国の地を踏み、平和の使者としてスポーツを介して理解を深めれば、恒久平和の礎ともなる。これに勝る”興行”はありません。

もちろん先導役の団長には、球団アドバイザーを務める黒田博樹さんにお願いしたい。対戦チームはNPBとも縁が深いロサンゼルス・ドジャースを始め、ダルビッシュ有投手が在籍するサンディエゴ・パドレスや菊池雄星投手がいるロサンゼルス・エンゼルスといった西海岸に本拠地を置くチームにオファーを出せば良いでしょう。

広島市の奇跡の戦後復興を、市民と共に成し遂げて来たカープにしか立てないバッターボックスがあります。三振しようがホームランをかっ飛ばそうが構わない。「平和」の二文字を背負ってフルスイングすることにこそ意義があります。なぜならば、カープは広島の市民球団だからに他なりません。