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本日開催される広島市議会の総務委員会において提示される予定の『中央図書館の再整備候補地の比較検討について(案)』 (作成: 広島市市民局生涯学習課) を入手しました。何はともあれまずは一読してみて、吃驚仰天してしまいました。地方公共団体では、この程度のクオリティの”作文”で100億円前後のプロジェクトを動かしているのでしょうか。政令指定都市でこのレベルであれば、地方財政が逼迫するのも然もありなんです。

 

僭越ながら、作家の立場から云わせて頂ければこの一文、論理展開が極めて脆弱であるだけではなく語彙の乏しさも甚だしい。また、力技で結論に導こうとしているため、筆者がコンテンツそのものを十分には理解していない、または納得していないことが丸分かりの文章となっています。

広島市市会議員に事前配布された同文書の中で、同課は「中央公園内での移転」について、直ちに活用するには「制約があり、候補地とすることは、事実上困難であると考えられることから、比較検討の対象から排除する」としています (「2 再整備を行うための候補地」)。

これら「中央公園内での移転候補地」には、ファミリープールと青少年センター敷地、ハノーバー庭園ならびに中央図書館北側緑地が挙げられ、「制約」については僅か数行の説明でこれら候補地への移転の可能性は無いと”断定” (「別紙1」)。現在地建て替えかエールエールA館への移転といった二者択一へと議論を誘導する意識操作が為されています。こうした安易な論法に異を唱えられないようであれば、市議会議員の見識や知識も同程度、ということになります。

 

まずもって、私がブログ『遠方より広島市中央図書館の移転を嘆き、そして憂うの巻〜⑩』で提案した新サッカースタジアムの東側に位置する中央公園広場 (地下構造) については移転候補地リストにさえ上がっていません。それもそのはずで、公園内のこの限られた特定エリアだけは同課が指摘する「制約」に抵触することなく、辛うじて制度設計の変更が今からでも間に合う唯一のオプションであるからに他なりません。

私は今年1月から、”第三の道”を探ることの重要性を説いて来ました。何事も「右」か「左」、「前」か「後」、「上」か「下」のいずれかを選ぶといった前提を設ければ、わかりやすいように見えて実のところは議論が矮小化し、幅広い自由な発想を妨げるデメリットが生じます。

 

 

同案によればエールエールA館への移転のメリットは、要は「現在地よりもエールエールA館の方が確実に利用者の増加が期待できる」。その理由は、「アクセスが容易で、通勤・通学の動線と方向が一致している」から、となります。しかしながら、驚くことにこの基本方針を裏付けるカウント調査 (通行量・動線調査) など初歩的なマーケティング・リサーチさえ行われていないという雑駁さです。これではいくら「利用客は増えるだろう」といった希望的観測を主張されたところで説得力は露ほどもありません。

また、移転もしくは建て替えに要する費用については、「エールエールA館は、土地及び建物の取得費用は必要となるものの、既存建物の改修のみであることから、整備費は現在地よりも安価である」と論じています (「財政面への配慮」)。なるほど概算整備費は現在地建て替えの場合は約113.5億円、エールエールA館への移転であれば約99.8億円と記されています(「別紙3」)。

いかにも「100億円を切りました」といったポジティヴ・イメージにこだわった数字ではありますが、まずもってこの金額でお引っ越しが出来るのか、といった素朴な疑問が湧いて来ます。先日、東京都内の施工業者と話す機会がありましたが、今年はロシア連邦のウクライナ軍事侵攻の煽りを受けて、各種建築資材が年に数回のペースで値上がりしている。しかも数%ではなく10%を超えるといった異常な事態が続いています。

 

そもそも築24年を迎える中古商業ビルの8階から10階を専有するともなれば、とてもではありませんが閉架書庫の重量には堪えられないことなど素人にもわかります。となれば追加補強工事が必要となる。地階または低層階であればまだしも、高層階ともなればビル全体の躯体設計、デザイン自体にも影響を及ぼすことでしょう。約57.5億円で3フロアを買い取り後、施工業者から「補強は物理的に困難」との判断が示された場合、一体どうするおつもりなのでしょう。失礼ながら、余りの見通しの甘さ、コスト・マネージメントのなさに呆れる他ありません。

さらには、高々6ページの文章に「整備方法に技術的な違いはあるものの、優劣の差は生じない」といったフレーズが何と6回も登場しています。しかも強調している割には、肝心要の「整備方法の技術的な差異」についてはまったく説明がないというお粗末さ。デューデリジェンスという文言は、広島市の辞書にはないようです。

 

図書館は、キャッシュは生まないが、インテリジェンスを育む。教養ある人材こそが地方公共団体にとってはかけがえのない財産であり、ひいては資本となる。国から地方公共団体への税源移譲が叫ばれて久しい。しかしながら、このような体たらくを見せつけられては、私がもしも総務省の官僚であったとしても二の足を踏まざるを得ないでしょう。広島市の迷える公務員諸君よ、まずは経済原論、公共政策、そして”つづり方”から学ぼうか。

 

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