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ほんの80年前。我が国は、戦争によって国益を損ない、国民は塗炭の苦しみに苛まれ、周辺諸国に対しても計り知れない艱難辛苦を与えました。日本国民も被害、加害を問わず戦争の惨禍を身を以て経験し、深く反省し、戦後復興の鳥羽口に立った。科学者も然りで直接、間接的に戦争に加担した自らの責任を認識し、平和の構築にのみ知識や技術を役立て、政府からは独立した形で政策への助言を行うと誓いました。

 

日本学術会議が発足した1949年 (昭和24年) 1月22日に開催された第1回総会において発表された「決意表明」 (声明) には、

「われわれは、これまでわが国の科学者がとりきたつた態度について強く反省し、今後は、科学が文化国家ないし平和国家の基礎であるという確信の下に、わが国の平和的復興と人類の福祉増進のために貢献せんことを誓うものである」と綴られており、さらには、

「われわれは、日本国憲法の保障する思想と良心の自由、学問の自由及び言論の自由を確保するとともに、科学者の総意の下に、人類の平和のためあまねく世界の学界と提携して学術の進歩に寄与するよう万全の努力を傾注すべきことを期する」と力強く結ばれています。

一方、2008年 (平成20年) 4月8日に作成された「声明 日本学術会議憲章」の前文は、

「科学者は、人類遺産である公共的な知的資産を継承して、その基礎の上に新たな知識の発見や技術の開発によって公共の福祉の増進に寄与するとともに、地峡環境と人類社会の調和ある平和的な発展に貢献することを、社会から負託されている存在である」と、まるで木で鼻を括ったような表現となっています。

 

  私は拙著『平和の栖〜広島から続く道の先に』の中で、次のように綴りました。

「広島、長崎に限らず大半の日本人も、同じく軍国主義への責任転嫁を行っている。原爆の破壊力があまりにも凄まじいものであっただけに、こうした異次元の科学兵器を有した米国と一戦を交える決断を下した軍部の無能ぶりに矛先が向けられた。戦時中、帝国陸海軍の攻勢により破綻寸前と盛んに報じられていた米国経済ではあったが、何のことはない。蓋を開けてみれば約二〇億ドルといった巨費が投じられ、延べ十二万人もの人々が原爆開発・製造計画に携わっていた。資金も技術もないのは当の日本だった。日本は「近代」に負けた。精神力ではなく、技術力に破れたと我々は体よく捉え、自らを納得させて見せた。

 以降、「科学を征する者は世界を征する」とばかりに過剰とも思えるほどの科学信奉に、我が国は脇目も振らず突き進むこととなる。それは、「散切り頭をたたいてみれば文明開化の音がする」といわれたあの時と同じ、西洋文明に対する消し去り難いコンプレックスの表れでもあった。

 しかしながら科学技術の粋を集め、「原子力の平和利用」を高らかに謳った夢の原子力発電もやがて、福島第一原子力発電所事故によりその欺瞞が白日のもとに晒されることとなる。二〇一六年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隈良典博士が、「私は『役に立つ』という言葉がとっても社会をだめにしていると思っています。数年後に事業化できることと同義語になっていることに問題がある」と語った”憂い”、目先の実利のみを追い求める科学の在り方が戦後一貫してこの国の国是となり、正義ともなった」。

  こうした一種の”すり替え”は、哀しいかな我が国の戦後復興の”方便”となりました。日本学術会議の”誓い”の変容振りからもそれは明らかでしょう。

 

  私は、石を投げれば大学教授に当たる環境に産まれ育ったため、”学者”に対して見境なく畏敬の念を抱くことはまったくありません。大学教授という肩書きを持つ人間の中には、卓越した能力を有した優れた人格者も確かにいる。しかしながら無能どころか、社会にとって有害な輩も掃いて捨てるほどいることをこれまで嫌と云うほど見聞きして来ました。

  戦後、我が国の科学者は奇跡の戦後復興、日本製品・技術のグローバル化、世界を席巻した経済大国化といった”事象”によって驕り高ぶり、我が国の拠って立つ、堅守すべき”原点”を忘れてしまったようです。

  今月13日、日本学術会議を特殊法人化する日本学術会議法案が衆議院本会議において賛成多数で可決され、参議院に送られました。これを受けて学術会議側は猛反発していますが、私に云わせれば身から出た錆。今更、綺麗事を云うのは止しにしましょうや。

 

〽 唄を忘れた金糸雀は 後の山に 棄てましょか

  唄を忘れた金糸雀は 背戸の小薮に 埋めましょか

  唄を忘れた金糸雀は 柳の鞭で ぶちましょか

 

  はてさて、唄を忘れた金糸雀は果たして、

 

〽 象牙の船に 銀の櫂

  月夜の海に 浮かべれば

  忘れた唄を 思い出す

 

  のでしょうか (作詞 西條八十)。

 

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