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1976 (昭和51初夏。神奈川県・鎌倉、稲村ヶ崎に面した今はなきダイニング・バーにたむろし、沖を見詰めては「今日はベタ凪だな」などと呟いていたあの頃。一枚板のカウンターの上には雑誌『ポパイ』の創刊号が無造作に広げられ、ライムが挿し込まれたコロナ・エキストラのボトルが転がっていました。時間は永遠だと思えた日々。BGMには常にイーグルスやジャクソン・ブラウン、そしてザ・ドゥービー・ブラザーズが

同年1月に初来日を果たしたドゥービーのコンサートを観たのは日本武道館 (東京・千代田区)。あの夜と同じ会場で47年振りに開催された『ザ・ドゥービー・ブラザーズ 結成50周年リユニオン・ツアー』公演(先週17に行って来ました。

 

彼らも、今や平均年齢は70歳代前半。仕事柄、私は年齢を意識することは殆どありませんが、観客が高齢者ばかりなのを見せつけられると、さすがに時の流れを感じざるを得ませんでした。同じロックでも、清潔感のある軽快なウェストコースト・サウンドの代表格であったドゥービーのコンサートであるだけに女性は、いかにも当時ハマトラに身を包んでいたであろう小綺麗な方々が多い。一方、男はと云えば、どこか人生を踏み外し損ねた不完全燃焼系のおじさんたちといった印象が否めませんでした。

 

 

肝心のコンサートは、(日本武道館ならではの音響の悪さを差し引いてもリズムがやけに重い。音のコンビネーションもアンバランス。そのいずれもがドゥービーの最大の魅力であっただけに、本国であればブーイングが飛び交うであろう散々たる出足でした。トム・ジョンストンの伸びのある高音は未だ健在で、ハーモニーの美しさも当時のままであったものの何分、マイケル・マクドナルドの歌唱力の低下が著しく、聴いていて痛々しいほどでした。圧倒的なテクニックとパワーでグイグイ観客を引き込んで行くギタリストを擁するロックバンドが多数を占める中、ドゥービーは繊細なアンサンブルが持ち味であったため、再結成ともなるとシャープなパフォーマンスを取り戻すのは容易ではなかったようです。

後半、『Jesus is Just Alright』辺りから漸くエンジンがかかり始めたのか、かつてのドライブ感が甦り、アンコールの『Takin’ It To The Streets』まで一気に駆け抜けられたのは幸いでした。

 

私たちオールドファンはやもすれば、レコードが擦り切れるほど聴き込んだ楽曲の再現をミュージシャンに求めます。しかしながら半世紀もの時間が経過すれば、ザ・ローリング・ストーンズといった一部のトップ・アーティストたちを除けば、例えメンバーは同じであっても物理的に再現することさえ難しい。そんな時代に足を踏み入れてしまったことに、軽いショックを覚えた一夜でした。

 

  鎌倉の海は今も、あの頃と同じように私たちを優しく受け入れてくれます。しかしながら国道134号線沿いの店舗は、当時とは様変わりしてしまいました。住民もまた「湘南」に憧れ、東京から移り住んだ人々が増えるに従い、「明日も浜に行くべ〜よ」といった地元言葉を耳にする機会も少なくなりました。シングルフィンのロングボードが姿を消し、海の家が小洒落たビーチハウスに取って替わられた頃合いから、ドゥービーも人々の記憶から零れ落ちて行ったようです。What A Fool Believes, indeed!

 

 

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